すべての作品が心痛いが、特に『ぐるりのこと。』は興味深い。事件を客観的に写しとる法廷画家という職人の視点と、鬱病の妻を支える夫の視点、ふたつの視点を絡め社会の闇を浮き彫りにしながら、人の生き方を問う。橋口亮輔監督の6年ぶりの新作だった。「鬱病や訴訟問題に巻き込まれた私自身の辛い経験がこの作品に結実したと思う。6年は無駄ではなかった」と監督は振り返っている。仕事にあぶれ、靴修理屋でアルバイトをしている画家のカナオは知人の紹介で、公判中の被告人をスケッチする法廷画家の職に就く。妻、翔子は出版社の編集者。2人の幸せな暮らしは翔子の流産で歯車が狂い始める。世界が認めた『ハッシュ!』から新作完成まで6年を費やしている。監督は自分やその周囲で起こったこと、さらに社会で起こった事件や事故を、「鬱病」や「法廷画家」というキーワードに絡めとりながら脚本に仕上げていった。 キャストで異色なのは主人公にイラストレーターのリリーを指名したこと。かつて、一緒に仕事をした経験と彼の小説「東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン」を読んで、この人しかいないと思ったという。リリー・フランキーも返事をするのに3カ月悩んだという。さらにこだわったのが妻役の木村多江の配役。彼女を待つため、撮影スケジュールを遅らせたという。ふたり以外では撮れなかったと語る監督。カナオが傍聴する裁判はいずれも社会を震撼させた事件がモチーフになっている。地下鉄サリン事件、連続幼女誘拐殺人事件、大阪・池田小事件、等々。監督はこれら事件にかかわる膨大な裁判資料を読み込み、巧みに映像化していくことで、当時の社会の闇をあぶり出すように描きあげた。個人的に訴訟にも巻き込まれ、そんな時期に耐震偽装問題が起こり、監督は窮地に陥る。なぜ落ち度のない人間がつらい状況に陥らなければならないのか。自分の人生と社会がシンクロしていったというのだ。いつから日本人はこんな風になってしまったのか。法廷画家として、ひとりの男として。カナオは不正や悪、理不尽さから目をそらさず、素直に嘆き、怒り、真正面から社会と対峙する。カナオの心の叫びを橋口はつぶさにフィルムに焼き付けていく。
この映画で初めて同性愛を問わない映画に仕上げた。新しく、鬱という彼にとっての問題点が露呈してきたからだろうと思う。このブログにいちばん関係のない映画のことをたくさん書いてしまったが、それまでの監督の作品、これは同性愛者は必見である。監督の生きざまそのものがスクリーンから溢れだしてきているから。
2 件のコメント:
こんばんは。まりです。この監督は私も思い出深いです。一人で映画館へ行ったいちばん古い記憶が、この橋口亮輔監督の二十歳の微熱です。高校3年の誕生日、学校を早退して観に行きました。(歳がバレますね)田舎の学校だったので、結構時間をかけて観にいったんですよ。しかもミニシアター系だから上映されてる場所が決まっていて、早退しないと観れなかったんです。(ゆるい学校でよかったです)この監督の映画は好きです。初期の方しかいませんが、他のものも観てみようと思いました。観る映画は邦画寄りです。
まりさん、こんばんは♪
コメントありがとうございます。
放置していたので、気づかなくてすみませんでした。
この監督さん、ホントにいい映画を作ると思います。
これからもチェックし続けていきたいと思っています。
もっと、ブログ書こ。
ありがとうございました。
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