監督は『リトル・ダンサー』のスティーヴン・ダルトリー。『めぐりあう時間たち』『愛を読むひと』と監督作3作ともがアカデミー賞で作品賞と監督賞にノミネートされている。本作ではアカデミー賞で9部門にノミネートされ、特殊メイクをしてヴァージニア・ウルフをそっくりに演じたニコール・キッドマンがアカデミー主演女優賞をはじめジュリアン・ムーア、メリル・ストリープの3人ともが数々の演技賞を受賞している。3人は、それぞれ設定が違う時代だったため、撮影でいちども顔を合わせなかったらしい。当初はアンソニー・ミンゲラが監督する予定だった。
時を超えて企画される3つのパーティ。ひとつは1923年ロンドン郊外、「ダロウェイ夫人」執筆中の作家ヴァージニア・ウルフが姉とティータイムをするため。ひとつは1951年ロサンジェルス、「ダロウェイ夫人」を読む妊娠した主婦ローラが夫のために催す誕生パーティ。そして現代、2001年ニューヨーク、「ダロウェイ夫人」と同じあだ名を持つ編集者クラリッサのエイズで死に行く友人の作家を祝福するために受賞パーティ。それぞれの時間に生きる3人の女が、「ダロウェイ夫人」をキーワードに繋がってゆく。自分の居場所を見つけ、自分らしく生きていく人生を送るのは、難しい。映画はある1日を引きずり出して、我々に問いかける。ケーキをつくるのは夫を愛している証拠と息子に言いながら主婦ローラは、誰のために生きているかわからない。何年も自分を抑えながら愛する友人の看護をするクラリッサは、それでも自分の思い通り人工授精で娘を産んでいたりもする。精神を患い、夫を思う作家ヴァージニアには自ら死を選んでいく方法るしかなかった。人は皆、多かれ少なかれ、自分の生きている時間と周囲に縛られて生きている。その中で、どう考え行動するか、強く訴えかけてくる。時間軸が飛び交い疲れそうに思うが、実によく整理され、テーマは難解でありながら、オープニングからクライマックスまで一気に引き込まれてゆく。とても知的な映画であり、深いテーマを持っている。3つのエピソードが絡まっていく構成と主演女優たちのアンサンブルが実に見事であり、脇を演じるエド・ハリス、トニ・コレット、クレア・デーンズ、ミランダ・リチャードソンなども素晴らしい。ボクは中でもエド・ハリスを評価したい。生と死、家族、愛、セクシャリティ、孤独といった事柄が彼によって重量を増したと思う。地味にスルーされているが、もっと評価されていい映画だと思う。
と、ここで、このブログに何が関係してくるかというと、エド・ハリス演じる作家のリチャードだ。彼はエイズに侵されている。この物語の中で、彼の存在はなくてもいいような脇役に感じる。しかし、そうではない。彼は、メリル・ストリーぷ演じるクラりッサと、ローラとヴァージニアを繋ぐ「ダロウェイ夫人」というキーワード、クラりッサにリチャードがつけた「ダロウェイ夫人」というニックネームがなければ3人は繋がらないのだ。リチャードは自分の短い先の人生を儚んで、目の前で窓から飛び降り、自殺を図る。これは、クラリッサにとってあまりにもつらい出来事なのだ。リチャードを理解してくれる数少ない人間たちの相関図を、リチャードの目線からも見てほしい。そう思って取り上げた。あまりにも悲しい末路なのだから。
『めぐりあう時間たち』
原題:The Hours
2002年アメリカ・イギリス合作映画/上映時間:1時間55分
監督:スティーヴン・ダルトリー
出演:ニコール・キッドマン, ジュリアン・ムーア, メリル・ストリープ, エド・ハリス, トニ・コレット
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