2008年5月4日日曜日

YES・YES・YES


 自分の中に「歌」がないことに気づいたジュンは、自らを傷つける道をとるために、セクシャリティと異なる世界に踏み込む。男が男を買いに来る売り専バーで働く17歳のジュンは、毎夜そこへやってくる男たちとの絡みや交わりから、何かを知っていくこととなる。
 と、内容を説明しようとすると、ほぼ全体の7割を占めるベッドシーンの羅列で、短絡的なあらすじ説明になってしまう。しかし、そう簡単なものではない。おいおいセリフやシチュエーションを引用して補足したいと思う。
 まず、これは1989年暮れに発売されたもので、今ほどゲイに対して状況が受け入れられていない頃の小説であること、1960年東京生まれの著者比留間久夫氏本人がゲイであること、それを念頭に置いてほしい。ボクが読んだその当時26歳は、普通にごまかしていたこともあり、ちょっと衝撃的な世界ではあった。知ってはいたが、ここまで事細かに書かれるとそれなりに衝撃は受けたのである。
 ノーマルな方にわかりやすく言うと、女の子がだれかに対して初めて足を開くということがどんなに刺激的か、相手を受けいれるとどんな感情になるか、行為の最中に涙を流すというのはどんな気持ちか。女性が多分誰でも知っているだろう感覚を、ノーマルな少年が男相手に自分の体を使って知ってゆく物語という感じだ。この発想はノーマルな方たちには驚異的なことだろう。ただ、ボクには衝撃ではあったけど、そこまでレアな感覚はなかった。主人公のジュンは、自意識過剰で内に籠った苦悩から、自分がとても蔑んでいるような相手に身をまかせて自分を壊してしまいたいという勝手な理由で男に体を売ることを決意するのである。結果、壊れずに終わるのだが、売春としての意識が目覚め、プライドが明確になり、優しさを覚えてゆく。男に体を売るということが、実は多少の愛情を持てなければ勤まらないもだといわんばかりだ。
 中に登場する椿さんや歌舞伎のママたちに対する筆者の愛情溢れる描写は化けもの扱いしているくせにとても愛情深く、多分いずれ紹介するだろう映画『メゾン・ド・ヒミコ』のような描き方である。例えば、椿さんのアザラシみたいな尻を前にタチ役をこなさなければならなくなった主人公が、「これはニューギニアの人食い人種の女だ……」と自分に言い聞かせるくだりなどはユーモアに溢れている。そもそもの理由がそんなだから惚れたはれたはなく、冷淡な洞察で「男」としての意識が脱がされていく感じを味わったと言えばよいか。
 とはいえ、一般小説の読者としてはかなりのダメージを与えるわからない感情かも知れない。文学的とはほど遠く、生々しいから、生理的に嫌悪感を憶える方はいるだろう。
 処女小説としては、多分その頃、勢いは充分で迫力さえ感じた。これで比留間氏はベストセラー作家となり、第26回文藝賞を受賞し、第3回三島由紀夫賞候補にもなる。その後の作品「ハッピーバースデイ」「ウルトラポップ」「不思議な体験」などの方が評価は高いようだ。1999年の「文藝」への投稿を最後に今は何をしているのよく知らない。
 正直言うと、オタク的視点で書かれているような気がして「エデン」や「ナルシス」といった単語の使い方に偏りを感じます。チャプターごとに同じベッドシーンや相手の男たちへの思いが違っていて、飽きはしない。すぐに読み切れる。ラストシーンも結論的なものを曖昧にしていて受け取り方は、多種多様だと思う。自虐的な青春文学と思うと読みやすいかも。 もし、主人公が女の子なら、今の携帯小説に通じる感じを受ける。
 なぜ自分を壊さなくてはならなかったのかのかは最後まで明かされない。若い頃に誰もが感じる青臭い虚無感みたいなものを感じるされるだけだ。
 ここでは主人公はノーマルだから、少し感情が違う。でも、マイノリティを意識し始めたボクは同じような空洞を経験してるのだと思う。新宿二丁目に足を運べば、やはり、違う。ボクがマイノリティから大多数の中の一人に一変し、何も罪悪感を感じない。だが、それはほんの街の一角。きっと、ノーマルの人たちには違和感ある空間だと思う。あそこは何か焦っている人間が引きつけられるような雰囲気を持っている。自己陶酔と自虐がこの小説のすべてのように今は思う。あれから20年を経たボクには何も衝撃は今は感じない。妙に達観した冷めた目をして読むことができる。皮膚で感じる繁華街の光景がとても鮮烈ではある。夜明けの繁華街の汚れた急に現実に帰ったような感じ、まだ、酔い潰れた人が公園で新聞を被って寝ているような風景。あんな虚無感から優しさを理解してゆく印象は実に妙だ。でも、その経験も、同類と話し込んだ夜もみんな今に至るボクには必要なんだったんだと、今、この本を読み返して思う。
 河出書房新社1200円。文庫も出ている。480円。文庫の方が捜しやすいかも。

8 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

豆腐さん。こんにちわ。

ファースト・インプレッションです。。。
豆腐さんは、新宿のあそこに行ったことがあるの??
26歳の豆腐さんは、さぞかし衝撃的だったと思う反面、自分だけでないという安心感とかは、あったのかな??

豆腐 さんのコメント...

◆匿名さん、こんばんは。
ありますよ。でも、地元のバーでもう安心感は経験済みだったし、ボクをこの道に引き込んだ人に免疫つけてもらってたのでね。
学生時代は悶々としていたけど。

あ、出来たら、変なのでもいいからハンドルネーム付けて投稿してくれるとうれしいな。

志保 さんのコメント...

あれ??
志保どす。。。

豆腐 さんのコメント...

◆志保たん、コメントありがとう。
そうだったのね。
キンチョーしてコメ返事しちゃったじゃん。

匿名 さんのコメント...

彼は、自分を傷つけて「歌」を
得ることができたのかな??

豆腐 さんのコメント...

◆匿名さん、おはよう。
って匿名さんじゃないと思うけど。
その辺はよくわからないな。
ただ自分の本能とか感覚みたいなものに結論を出しているので、それが当初の歌だったのかもしれない。
もう一度読み返してみたいかな。
時間ねぇ~。

匿名 さんのコメント...

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豆腐 さんのコメント...

◆Hello, anonym.

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